
今年のアカデミー賞で10部門にノミネートされ、作品賞の最有力候補として注目を集めている『ブルータリスト』が公開中だ。この映画は、ホロコーストを生き延びたユダヤ系建築家ラースロー・トートの波乱万丈の人生を描いている。彼はハンガリーからアメリカに渡り、ペンシルベニアで富豪との出会いをきっかけに新たな建築プロジェクトに挑む。アメリカでの“ブルータリズム”という独特の建築様式を通じて、異なる価値観を持つ人々とのコミュニケーションを試みる彼の姿が描かれる一方で、ヨーロッパに残された妻と姪をアメリカに呼び寄せようとする奮闘も展開される。
30年にわたるラースローの激動の人生を演じるのは、エイドリアン・ブロディだ。彼は過去に『戦場のピアニスト』でアカデミー賞主演男優賞を史上最年少で受賞した経験を持ち、今回も再びアカデミー賞にノミネートされた。ブロディは『ブルータリスト』に対する思いや役作りについて、単独インタビューで語った。「東京からのインタビューですね」と話しかけると、「僕はニューヨーク出身のエイドリアンです」と返す彼のユーモアが印象的だった。
■「この役は俳優にとって素晴らしい旅になると確信した」
エイドリアン・ブロディが演じるのは、ホロコーストを生き延びアメリカへわたった、ハンガリー系ユダヤ人建築家のラースロー・トート / [c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. [c] Universal Pictures
215分に及ぶ壮大な作品でありながら、製作費は1000万ドルとインディペンデント映画としては低予算の『ブルータリスト』。ブロディは脚本に感銘を受け、出演を決意したという。「5年前に初めて脚本を読んだとき、心の底から感動しました。ラースローのキャラクターは非常に複雑で、共感できる部分が多く、俳優としてのキャリアにおいて特別な“旅”になると実感しました」と語る。
ラースローはアメリカで実業家のハリソンと出会い、礼拝堂の設計と建築を依頼される / [c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. [c] Universal Pictures
ブロディは、作品が傑作になると信じる理由についても語った。「俳優としての役割を果たし、他の人々も同様の姿勢で臨むことで、作品に一体感が生まれると信じています。『ブルータリスト』では、監督のブラディ・コーベットが期待以上の成果を上げてくれたことに感銘を受けました」と述べた。
第81回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した、ブラディ・コーベット監督 / [c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. [c] Universal Pictures
監督のブラディ・コーベットは、前作『シークレット・オブ・モンスター』や『ポップスター』に続く本作で、ヴェネチア国際映画祭の銀獅子賞を受賞した。ブロディは、コーベットの作品に対する先見の明と独創性を高く評価し、「彼の感受性が本作の核心となっている」と語る。
■「30年を演じることは大きな挑戦」
【写真を見る】『戦場のピアニスト』以来、2つ目のオスカー獲得なるか?『ブルータリスト』エイドリアン・ブロディに単独インタビュー / [c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. [c] Universal Pictures
ラースローの30年にわたる人生を体現することは、ブロディにとっても大きな挑戦だった。「役を選ぶ際には挑戦が重要です。ラースローの長い人生の旅を通じて、年齢や感情の変化を探究することができるのは貴重な経験でした」と振り返る。
文化やルールも異なるアメリカでの設計作業に、多くの困難が立ちはだかる / [c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. [c] Universal Pictures
ラースローの建築に対する情熱は、ブロディ自身の俳優としての野心とも重なる部分があり、彼は「互いの共通点が、芸術家の運命を面白くする要因だと思います」と語る。
ラースロ―の妻エルジェーベトを演じたのはフェリシティ・ジョーンズ / [c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. [c] Universal Pictures
『ブルータリスト』を通じて、ブロディは自身のキャリアと『戦場のピアニスト』との関連性についても考察した。「『戦場のピアニスト』は、私のキャリアの基盤となる作品です。ナチス占領下の人々の苦難を表現することは、当時の私にとって非常に重い責任でした。あの経験が、私の視点を形成した大切な出来事です」と振り返る。
実業家ハリソンを演じたのはガイ・ピアース / [c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. [c] Universal Pictures
ブロディは『ブルータリスト』で再びアカデミー賞を狙う可能性があり、受賞への期待感も漂う。「この映画に対する賞賛や愛に感動しており、結果は運命に任せています。私にとっての達成感は、作品を共有できたことです」と謙虚に語った。
俳優エイドリアン・ブロディにとって、重要なのは真摯に取り組んだ作品が多くの人に届くこと。彼は、2つ目のオスカーはあくまで“ご褒美”にすぎないと考えている。真摯な姿勢を持つ彼は、今後も素晴らしい作品との出会いを求め続けるだろう。
取材・文/斉藤博昭