
小説家であり映画監督でもある榎本憲男氏が、映画の魅力を新たな視点から探求する連載を開始しました。榎本は2011年に小説家としてのキャリアをスタートさせ、「エアー2.0」で第18回大藪春彦賞の候補に名を連ね、2024年にはその続編となる「エアー3.0」の発表を予定しています。また、著作には「サイケデリック・マウンテン」や「巡査長 真行寺弘道」シリーズが含まれ、最新作の長編小説「アガラ」は2月7日に発売される予定です。彼のキャリアは映画館勤務から始まり、銀座テアトル西友(現・銀座テアトルシネマ)やテアトル新宿の支配人を経て、映画プロデューサーや脚本家としても活動しています。映画監督や俳優を育成するENBUゼミナールでは脚本講座の講師を務め、上田慎一郎監督の話題作『カメラを止めるな!』でシナリオ指導を行ったことでも知られています。
この新連載は、榎本が映画のストーリーに焦点を当て、様々な角度から問いかけていく内容となっています。第1回では、今後の連載の展望に触れながら、ストーリーの重要性について語ります。
■「ストーリーの本質を探る」
第89回アカデミー賞で作品賞を受賞した、バリー・ジェンキンス監督の『ムーンライト』 / [c]Everett Collection/AFLO
榎本は、映画におけるストーリーの重要性を深く掘り下げることに意義があると考えています。これまでの映画批評では、ストーリーそのものに焦点を当てることが少なかったため、作品の豊かさが失われてしまうことが多かったのです。特に『ムーンライト』や『マネー・ショート 華麗なる大逆転』に関する評論が、俳優や監督に焦点を当てる一方で、ストーリーの深い意味に触れないことが多かったと指摘します。
■ストーリーの構造とは何か
榎本が強調するのは、ストーリーの基本的な構造です。ストーリーは主人公の旅であり、日常から非日常の世界へと旅立ち、再び日常に戻るというプロセスが基本です。この「行って帰る」という構造は多くの物語に共通しており、ストーリーの中には複数のプロットが束になって存在します。
『ハワーズエンド』は、ジェームズ・アイヴォリー監督が『眺めのいい部屋』『モーリス』に続いて手掛けたE・M・フォースター原作の映画化作品 / [c]Everett Collection/AFLO
この基本的な構造の中で、特に重要なのは状況設定です。主人公のキャラクター設定が、その後の物語の進行に大きな影響を与えます。榎本は、「欲しいもの」(want/need)を設定することが、ストーリーの核になると述べています。主人公が何を求めて旅立つのか、そしてその旅の中でどのような葛藤を経験するのかが、物語の展開を決定づけるのです。
■現代のストーリーとその挑戦
イ・ジョンジェ主演、Netflixで配信され、シーズン3も控える人気ドラマ「イカゲーム」(「イカゲーム シーズン2」) / [c]Everett Collection/AFLO
現代において、ストーリーは複雑化し、多様化しています。特にアート系の作品では、主人公の「欲しいもの」が多層的になることが多く、これがストーリーの理解を難しくしています。榎本は、現代の映画におけるストーリー設定のリスクと、その魅力についても言及しています。
このように、榎本憲男氏の連載は、映画のストーリーを中心にした新たな視点を提供し、読者に深い理解を促す内容となっています。今後の展開に注目が集まることでしょう。
文/榎本 憲男